アキバの英語ガイドブック


 AkibaGuideBook_NozoeToshimichi.12_CropW.jpg 「アキバ系外国人向けガイドブック」なるものがある。ご存じの通り、ここは外国人の東京での大事な観光スポットの一つだ。なのに今まで、専用のガイドブックがなかったのだ。

 このガイドブックをたった1人で企画・制作・プロデュースした野添利道氏は、外資系の会社に勤めている。少なからぬ外国人の同僚が、日本のポップカルチャーに関心を持っていることを知って、ガイドブックのニーズを強く感じたという。

 だが、野添さん自身は元々オタク文化と無縁。まず、何を紹介すればいいかを探るため、休日、秋葉原に出向き、リサーチすることから始めた。200人以上の外国人観光客に声をかけて、その場でインタビューし、行きたい店や困っている点をこまめに聞き出した。その上で、名前のあがった店や飲食店にガイドブック掲載の交渉をした。

 英語で書かれたこのガイドブックには、フィギュア、プラモデル、アニメや同人誌の専門店、手頃な飲食店やメードカフェでのマナーなど、秋葉原を初めて訪れる人のための基礎知識が詰まっている。発売後は思わぬ反響があり、海外のメディアからも取材を受けているという(注文はhttp://www.akibaguidebook.comから)。

 僕もしばしば外国から来た知人に、秋葉原の歩き方を相談されるので、これからはこのガイドを薦めることにしよう。クール!


Posted at 02:06 午後     Read More  

 右綴じのマンガ


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 日本のマンガのフランス語版がフランスの書店に現れたのは15年ほど前にすぎないが、若者の心をとりこにして、フランスのマンガ市場は日本の次に大きいと言われている。本の売れ行きが悪いのはフランスも同じ。でも唯一売り上げを伸ばしているのがマンガだ。

 マンガブームは出版業界にとって、ある種の革命だ。グーテンベルクが?世紀に活版印刷技術をもたらして以来、欧米の出版物はすべて左綴じだった。しかし今、フランスで出版されるマンガのおよそ3分の2が、日本同様右綴じ、ページの流れも右から左で、本来の欧米の造本とは逆だ。日本には右綴じの本も左綴じの本もあるから、日本人は両方に慣れている。しかし欧米人にとって、「右側のページから読む」のは新鮮な出来事だ。「初めてマンガを手にしたとき、読む方向が分からなかった」とファンたちは言う。

 日本版のネームだけフランス語に入れ替えて、そのまま右綴じに製本するのは、出版社もラク。左綴じに造り直すためには、左から右に物語が流れるようにコマを入れ替えなければならず、手間も費用もかかるからだ。ファンも「日本人みたいでカッコイイ」右綴じを望んでいる。

 マンガばかり読んでいるうちに癖がついて、左綴じ本のページを逆方向にめくってしまったという笑い話を聞いたことがある。もしかすると右綴じ本は、日本文化が海外の人々に与えている一番大きな影響かもしれない。


Posted at 08:49 午後     Read More  

 インディーズ・アーティスト


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 マイア・バルーはフランス人の歌手ピエール・バルーと日本人の母の間に生まれたミュージシャンだ。先日、彼女が主催するライブを聴きに行った。日本全国で出会ったミュージシャンと組んで、奄美大島の島唄から北海道のトンコリ(アイヌの伝統弦楽器)まで幅広いジャンルを集めたアルバム「くさまくら」を出したばかり。ライブにも「くさまくら」の仲間が集合した。

 彼女からその日、意外な話を聞いた。「日本では、一人前のミュージシャンとして認められるまで、アルバイトで食べていくのは当たり前でしょ。だから途中であきらめる人もいる珍しくない」。それに比べてフランスでは、数十年前からアーティストの社会保障制度があるので、10カ月間で507時間以上のアーティスト活動さえ証明できれば、8カ月分の失業手当がもらえるのだという。僕も初耳だ。

 「もちろん、アーティストにとってはありがたい制度だけど、これでいいのかしら。どうしても甘えが出てきてしまうし、何より問題なのは音楽や演劇の公演にも国の助成金が出るので、審査を通りやすい舞台作りをしてしまうこと。そんな温室みたいなところから、とんでもないオリジナリティーが生まれるかしら」。援助など一切ない日本で、「『くさまくら』の仲間たちみたいに、自分のルーツを見つめながら新しい試みに挑戦するミュージシャンが、私には一番クール」という。



Posted at 01:56 午後     Read More  

 カスタムカー


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先週末、代々木公園付近で「浜崎あゆみ仕様」のカスタムカー数台に遭遇した。車の内装や外装、性能をオーナーの好みに合わせて改造した車のこと。大分前から気になっていたので、オーナーたちに声をかけ、愛車の中を見せてもらった。内装はさらにこだわりの結晶だった。ある車は大小の液晶画面に「あゆ」のプロモーションビデオを同時に流し、ポスターやフィギュア、グッズの数々をレイアウトしてある。

 別の車は、カスタムカーの実物そっくりのミニチュアを後部座席のテーブルの上に置き、そのミニチュアの中にさらに液晶画面を置いて、車への愛も同時に表現している。後ろのウィンカーランプにも超小型液晶画面を設置してプロモーションビデオを流し、道行く人にも「あゆ」への愛をおすそ分けだ。このカスタムカーを作ったのは、東京に住む「くまちゃん」だ。浜崎あゆみがデビューして間もない頃から、彼女のイメージに合わせて少しずつ改造し続けた。かけた費用は10年間で1000万。車体に本人のサインが入っていることが自慢だ。

 不良の文化と冷ややかに見る向きもあるが、ここまでディテールにこだわりる姿勢は、アートに通ずるものがあると僕は思う。しかし、東京都のディーゼル車に関する規制に引っかかり、「くまちゃん」の車は今年いっぱいで路上を走らせられなくなるという。残念。こういう車を集めた博物館ができたらすてきなのに、と思った。


Posted at 11:59 午前     Read More  

 ホコ天


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8日に秋葉原で起こった無差別殺人事件で、歩行者天国(ホコ天)が問われている。

 命を奪われた方々の追悼のために、一時的にホコ天を中止するのは当然の配慮だ。しかし、アキバのホコ天自体を廃止することには、僕は反対だ。東京に数少ない「新しい文化の生まれる街」を、さらに減らすことになるから。

 22年前、僕が日本に着いて初めて過ごした週末は原宿のホコ天だった。ラジカセを持ち込み、独特の衣装で踊るグループ、路上ライブ……ここからデビューしたタレントやアマチュアバンドも多い。そういう若者たちも、それを受け入れている街も、僕にはとてもクールに映った。しかし原宿のホコ天は、騒音や違法駐車、周辺の交通渋滞などを理由に、10年前に廃止されてしまった。

 アキバが外国人の間で、日本の最新トレンドを体験できる名所と目されるのは、車を気にせず、ぶらぶら歩きながら街を見物できるホコ天の効果も大きいと思う。

 ホコ天に限らず、人の集まるところでは、人騒がせな出来事が起こりがちだ。アキバでは先頃、自称グラビアアイドルが下着を露出して写真を撮らせ、逮捕されたばかりだ。そこに今回のような事件が起これば、ホコ天への警戒心が高まるのは無理もない。しかし弊害を理由にホコ天を切り捨ててしまったら、アキバは取り返しのつかないダメージを負うような気がしてならない。


Posted at 12:54 午後     Read More  

 プリクラ


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私事で恐縮だが、先週は娘の12歳の誕生日だった。そこで、フランス人の友だち数人を招待して、誕生パーティーを開いた。一日中いろんな遊びをしたが、中でも全員が一番楽しんだのはプリクラ。今さら?

 フランスにもプリクラっぽいものが、あることはある。でも、日本のと比べると、とても原始的な代物だ。動物やアニメキャラなど背景のパターンをいくつか選べる程度で、しかもシールじゃない! 要するに証明写真の延長みたいなもの。

 お父さんの仕事の都合で日本に来たフランス人の女の子たちは、日本に来て初めてプリクラに出会った。えらく気に入って、週末には家の近くのゲームセンターに集合し、プリクラの前で仲良くポーズを決める。機種にもこだわりがあって、パターンが豊富なマシンは調査済みだ。日本で生まれて育った僕の娘には珍しくもなんともないが、友だちがいっしょだと楽しいみたい。

 どこがいちばんクール?と彼女らに聞いてみたら、「電子ペンでマークとか文字を描き込めるところ。その場で自分の顔が自分の顔じゃないみたいになっちゃうでしょ。もう、普通の写真じゃつまらない!」と熱心に説明してくれた。

 もうすぐ帰国する子は、フランスに日本みたいなプリクラがないことをとても惜しんでいた。ぜひフランスにも導入してほしいって……メーカーさん、どうかしら?


Posted at 12:50 午後     Read More  

 オタクは「J-Fan」に


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今、フランス出張中。先日は、パリ日本文化会館で行われたマンガとオタクに関する討論会にパネリストとして出席した。批評家の東浩紀さんの著書『動物化するポストモダン??オタクから見た日本社会』の仏語版出版を記念してのものだったが、米国やドイツ、イタリアからも専門家が参加した。日本のサブカルチャー研究は、最近海外でも盛んなのだ。

 90年代初頭、僕がオタクを社会現象として取材し始めた頃、オタクは「犯罪者的な存在」(東さんいわく)として扱われていた。しかし、オタクは現在、海外で日本のマンガやアニメ、ゲームなどを楽しむファンから、先輩として尊敬されている。海外では胸を張って「おれはオタクだ」と言う人も多い。こんな展開、当時は誰も予測できなかった。

 だが、僕はこの海外ファンのオタク自称にいつも違和感を覚える。オタクというあり方は、日本の教育制度や消費社会、情報社会などによって育まれたものだ。それらを密に体験しなければ、オタクには「なれない」。海外ファンが自称するオタクと日本のオタクは、違う文化背景を持つ似て非なるものだ。このあたりの事情を理解していない人ほど、自分をオタクと言いたがるような気がする。

 そこで僕は、海外ファンを「J‐Fan」と名づけようと提案した。「J−Pop」や「J−Fashion」が流行語になったように、この呼び方も定着するとよいのだが……。


Posted at 09:17 午前     Read More  

 文化の交差点



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「コミックマーケット」には、外国人ファンがたくさん訪れる。スペインからは昨年、ツアーで60人もが来場した。フランスのマンガ専門学校からは、コミケと組んだ共同企画を考えたいと申し込まれたそうだ。


 一方これだけ有名になると、観光気分で来場する外国人が増えるのは当然だ。日本のマンガについて予備知識のない人たちがいきなり、たくさん出品されている成人向け同人誌に出会った時、日本のマンガとはセックスを扱ったものだ、という誤解が生まれないだろうか。


 コミケはには、特別な参加資格は必要ない。個人が同人誌という手段で自由に発信できる場だ。ネットがなかった時代から現在まで、アマチュアの自由な表現を守り続けている。HPやパンフレットで外国人向けに、こうした歴史を紹介したら、コミケの本意をより理解してもらえるのではないだろうか。


「コミケが世界中のマンガファンの交流の場になることは大歓迎です。でも、3日間で55万人を動員するイベントで、おまけに運営は手弁当。外国人来場者だけを特別扱いできないのが実情です」と、筆谷芳行共同代表は語る。


 コミケのカタログなどを印刷している共信印刷の中村安博社長は、数年前から会場の一角で、海外のマンガをパネルで紹介している。コミケが文化の交差点でもあることを象徴する場面だ。コミケの側でも、もっと世界にアピールする手段を考える時期に来ていると思う。


Posted at 11:15 午後     Read More  

 言葉の壁超えるコスプレ


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先週に続き「コミックマーケット」の話題をご紹介したい。

 コミケには、同人誌販売コーナーの他にコスプレ広場がある。そこにも外国人が大勢いて、日本人コスプレイヤーを撮影していた。コスプレなら、言葉の壁を越えて楽しめる。
 日本のテレビアニメが外国でも放映されるようになると、アニメファンの一部はコスプレに目覚めた。ネットなどでコスプレというアニメの楽しみ方があることを知ったからだ。
 コミケに外国人コスプレファンが姿を現すようになったのは、05年に愛知万博会場で開かれた「世界コスプレサミット」以来だ。サミット自体は03年以来毎年名古屋で開かれているが、05年には例年より多くの外国人ファンが参加した。彼らはそこで、コミケがコスプレのトレンド発信地であることを知ったらしい。
 コスプレ広場の一角に、遠くからでもわかるほど盛況のスポットがあった。そこでは、何とNARUTOとその仲間のコスプレをしている外国人3人組がいた。灼熱の太陽の下、辛抱強く忍者ポーズをとって大勢のカメラマンに囲まれていた。「格好いい!」「本物のNARUTOみたい」などと、それぞれ感想をつぶやくカメラマンやギャラリー。
 コスプレの主はイタリア人から来た若者たち。京都や秋葉原などの観光スポット巡りもしているが、コスプレ本場コミケに登場するのが、彼らの旅の主たる目的だった。オタクの国際化は進んでいる!

Posted at 04:26 午後     Read More  

 コミケと外国人


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 8月17〜19日に開催された日本最大のマンガ同人誌即売会イベント「コミック・マーケット」(通称:コミケ)へ数年ぶりに行った。3日間で55万人が来場と、オタクパワーはますます盛んだ。今回特に注目したのは、外国人参加者のこと。

 僕が初めてコミケを取材したのは91年の夏だった。その時、昨年癌で亡くなった米沢嘉博代表自身が親切に応対してくださったことが、今でも思い出に残る。欧米人は僕以外1人も見かけず、参加者はきっと奇異の目で僕を見ていただろう。
 16年後の07年夏コミケでは、外国人はもう珍しくない。僕が行った3日目だけでも欧米人を50人以上見かけたが、アジア系の人もいただろうから、1日数百人の来場か。
 観光客として来場したスイス人男性2人は、動員数と熱気に圧倒され、呆然としていた。「こんなにHENTAIマンガがあるとは想像していなかった」。HENTAIは今や、日本語がわからない人にも通じる世界共通語(?)だ。
 アイルランド出身の23歳の若者は今回5回目のコミケだった。宇都宮に暮らす英語教師の彼は、日本人の常連客同様に前日上京して会場近くに宿泊し、当日は朝6時から入場口に並んでいた。普通の店では手に入らない人気同人ゲームや限定販売同人誌を手に入れ、ご満悦の様子。「少人数のサークルで半ば趣味的に作られている同人ゲームには、大手メーカー発売のものにはない自由な発想がある。僕も本職はプログラマーなので、いずれこういう同人ソフトを作りたいな」
 コミケ今や、外国人オタクにとっては伝説なのだ。

Posted at 10:36 午後     Read More  

オタクデモ


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 去る6月30日、秋葉原で世界初の「オタクデモ」があった。「アキハバラ解放でも」数百人の自称オタクが、アニメソングを歌いながら秋葉原の中央通りを中心に、交通規制をキチンと守って行進した。


 「革命」ならぬ「革萌」と書かれたヘルメットを始め、学生運動のデモ装備一式のパロディーを身につけたリーダーたちの横に、メード姿の女性やコスプレファン。皆、マンガを捨てて街に出た。僕も取材でデモに飛び込み、とても楽しかった。


 主催者の一人、古澤克大氏に、デモの趣旨を尋ねた。「〝アキハバラが好き″と発信したかった。最近、マニアの店が裏通りに追いやられている。次第に秋葉原がただのビジネス街に変化し、僕らオタクにとって居心地が悪くなりそうに感じている。そして表現や遊びの自由に関する危機感もある」


 僕は、このオタクデモはとても象徴的な出来事だと思う。ここ数年で日本発のポップカルチャーが世界に普及したのは、オタクのおかげだ。それに対して、企業や政治家はアキバ発の諸々を、アミューズメント・ビジネスにとってのコンテンツや、外交の手段と考え、カルチャーとはとらえていない。


 欧米のカルチャーと違って日本の文化には規制が少ないから、海外の若者は日本の文化にあこがれる。でも、オタク的な臭いを消毒してしまえば、魅力も半減するに違いない。


 だから、僕のスローガンはこうだ。「アキバを遊園地にするな!」


Posted at 06:34 午後     Read More